夏目漱石 上卷

道義の文士の偉大と悲慘

夏目漱石
 漱石の道徳的苦鬪の激しさを思ひやらぬ知的怠惰を痛烈に批判。江藤淳の漱石論がこれほど的確に批判された事は無い。西洋學問も封建道徳も信じ切れず、自己本位に徹して發狂寸前になり、なほも道義の文士たらんとする天才の偉大と悲慘を描く。類例の無い漱石論。

 

道徳的であるといふ事


 坊つちやんは無能であり滑稽である。だが、坊つちやんの「無能な所が下等」だとは誰も云ふまい。善の效用は「ドウデモヨイ」事ではない。現實には善は無能だが善は力を持つべきである。我々は誘惑に負けるが誘惑には勝つべきである。漱石はこの矛楯に堪へたから偉大なのだが、安直な解決を喜ぶ文化、或いは萬事「ドウデモヨイ」の文化にあつて、これくらゐ理解され難い眞理は無い。(本文より)



第一章 自己本位の焦熱地獄
第二章 異國文化との惡戰苦鬪
第三章 吾輩は猫である
第四章 坊つちやん
第五章 草枕
第六章 野分

平成七年十一月 地球社 本體3,399圓(税別)
ISBN4-8049-8037-7
 



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