人間通になる讀書術

賢者の毒を飮め、愚者の蜜を吐け

人間通になる讀書術

この世の嘘八百を見拔け!

  私は人生の諸問題に關する即效性のある忠告といふものを信じない。それらはいづれも「愚者の蜜」だからである。けれども、われわれは駄本だけではなく名著をも讀む。では名著を讀むことにはいかなる效用があるのだらうか。大風呂敷は廣げまい。私が請け合へるのはただ、「愚者の蜜」に騙されなくなるといふことである。「古典」とか「名著」とか稱せられる作品は、天才や賢人の眞劍な思索の結晶であり、それとじつくり附き合へば、われわれはこの世に充滿してゐる嘘八百を見拔けるやうになる。それはすばらしいことではないか。

【目次】

プロローグ

人間通になるための「無用の讀書」


第一章 この世が舞臺

1 すれつからしも騙される「惡い女」
森鴎外『ぢいさんばあさん』
2 「知的生活」のいかがはしい部分
フローベール『まごころ』
3 時には「長い物」に卷かれろ
樋口一葉『十三夜』
4 愛すべきは「專門馬鹿」の稚氣
幸田露伴『五重塔』



第二章 賢者の毒を飮め

5 自己主張の「精神」・自己滅卻の「美學」
ヘミングウェイ『老人と海』
6 「善人」が政治的「惡人」になる皮肉
オーウェル『動物農場』
7 人間に背負はされた因果な病「なぜ?」
中島敦『悟淨出世』
8 「騙されて幸福」といふこともある
イプセン『野鴨』
9 純眞な子供の「無知」を破壞しろ
モーム『雨』
10 簡單明瞭な道理が理解できぬ「複雜人間」
モーパッサン『脂肪の塊』



第三章 愚者の蜜を吐け

11 戰爭はなくせるといふ「平和屋」の馬鹿
フローベール『聖ジュリヤン傳』
12 「性善・性惡説」では割り切れない人間の性
ドストエフスキー『貧しき人々』『地下生活者の手記』
13 「金儲け主義」の"盲人"が陷る穴
バルザック『絶對の探求』
14 正義病患者よりも「無知な女」が可愛い理由
チエホフ『可愛い女』
15 善意の人が眼をつぶる人間の「殘忍性」
メルヴィル『幽靈船』
16 外科手術に似てゐる「愛のメカニズム」
ロレンス『てんたう蟲』
17 馬の前に馬車をつなぐ「樂天家」の幻想
ゴールディング『蠅の王』
エピローグ 「二本足の學者」こそ人間通の鏡
國木田獨歩『牛肉と馬鈴薯』

あとがき

昭和五十七年九月 徳間書店 234頁 定價980圓(絶版)
(カヴァー畫像・目次情報提供 岡田俊之輔先生



トップページへ