夏目漱石・上卷の書評


産經新聞 平成九年二月十一日

 上卷と銘打たれてゐるが、全二卷になるか三卷になるか、それともこれで完結なのか、皆目分からないといふ。が、讀者とすればさらに讀み繼ぎたくなる内容である。漱石論とはいへ、米軍が上陸してきた際の沖繩三十二軍の牛島滿軍司令官、長勇參謀長らへの罵倒から始まるあたりいかにも著者らしく、意表をつく。要するに彼らの作戰指導における「昨非今是」ぶり、昨日非とされたものが今日は是とされるいい加減さ、自己のなさが明治以來一般的で、さうした精神の態度をこそ漱石は唾棄したのだとして、話は江藤淳の漱石論批判にまで及んでゆく。



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